公開日:2026.08.08
婚姻費用算定表の見方|いくらもらえる?金額が変わる事情も解説

別居すると、家賃や食費、子どもの学費を一人で負担する場面が生じます。「相手の年収なら、毎月いくら請求できるのか」「住宅ローンを払ってもらっていれば生活費は請求できないのか」と疑問を持つ方もいるでしょう。
婚姻費用は、夫婦双方の収入、子どもの人数・年齢に対応する算定表を重要な目安とし、個別事情も確認して決めます。
算定表の帯の中から都合のよい数字を選ぶのではなく、使用する表、年収の種類、子どもの状況を正しく当てはめることが必要です。
※本記事は2026年8月時点の一般的な情報です。具体的な金額は個別事情で異なります。
目次
婚姻費用とは別居中の家族の生活費
夫婦は、資産、収入その他一切の事情を考慮して婚姻から生ずる費用を分担します。婚姻費用には、夫婦の生活費だけでなく、未成熟の子どもの食費、住居費、教育費、医療費等も含まれます。
離婚後に子どものために支払う「養育費」と異なり、婚姻費用は原則として婚姻関係が続いている間の問題です。別居していても離婚が成立するまでは対象になります。離婚成立後は、養育費や財産分与等を別に考えます。
算定表の見方を4ステップで確認
裁判所が公表する算定表は、標準的な算定方式による目安を表にしたものです。
1. 婚姻費用の表を選ぶ
養育費ではなく「婚姻費用」の表を選びます。子どもがいない夫婦用、子ども1人・2人・3人用があり、子どもの年齢区分も確認します。0〜14歳と15歳以上では使用する表が異なります。
2. 義務者と権利者を分ける
婚姻費用を支払う側を義務者、受け取る側を権利者として、縦軸・横軸へそれぞれの年収を当てはめます。男女や夫・妻で固定されるのではなく、収入と生活状況により立場が決まります。
3. 給与と自営の欄を選ぶ
給与所得者と自営業者では年収の見方が異なります。源泉徴収票の「支払金額」と、確定申告書の所得金額をそのまま同じ尺度として比較しません。算定表の該当する給与・自営の目盛りを使います。
4. 縦軸と横軸が交わる帯を見る
双方の年収が交わる帯が標準的な月額の目安です。帯に幅があるため、必ず上限・下限のどちらかになるわけではありません。算定表は「計算結果の確約」ではなく、協議や裁判所手続の出発点です。

年収は何の資料で確認するのか
給与所得者は、直近の源泉徴収票、給与明細、賞与明細、課税証明書等を確認します。転職、休職、残業の大幅な増減がある場合は、過去1年だけでなく今後の収入見込みも争点になります。
自営業者は、確定申告書、青色申告決算書・収支内訳書、課税証明書、総勘定元帳等を確認します。税法上の控除が、そのまま婚姻費用算定でも控除されるとは限りません。事業と家計の支出が混在している場合は、項目ごとに説明できるようにします。
無職・低収入の場合も、直ちに年収ゼロで計算するとは限りません。病気、育児、就労歴、資格、求人状況、失業の経緯等から、実際の収入か、働けば得られる収入を考慮するかが問題になることがあります。
算定表どおりにならないことがある事情
住宅費・住宅ローン
義務者が権利者の住む家の住宅ローンを支払っている場合、算定表に含まれる標準的な住居費との調整が問題になります。ローン全額が婚姻費用から差し引かれる、または全く考慮されないと一律にはいえません。
私立学校費・高額な教育費
算定表は標準的な教育費を考慮しています。私立学校、塾、留学等の追加費用は、夫婦の合意、従前の通学状況、収入水準、必要性等を確認します。
医療費・障害に関する費用
継続的な治療、障害、特別な介護等で標準を超える費用がある場合、診断書、領収書、補助制度の利用状況等を資料にします。
子どもの監護状況や同居家族
夫婦それぞれが子どもを監護している、成人に近い子が経済的に自立していない、連れ子がいる等では、単純な表の当てはめでは整理できないことがあります。
別居の経緯
別居原因や権利者側の有責性が、配偶者本人分の婚姻費用へ影響する場合があります。ただし、子どもの生活費まで当然に支払わなくてよいとはいえません。事情と対象を分けて検討します。
いつからいつまで請求できるのか
婚姻費用の分担義務自体は婚姻中にありますが、未払い分をいつまでさかのぼって請求できるかは別の問題です。実務上、請求の意思を明確にした時点が重要になることがあります。
口頭で伝えた場合は、後から「請求されていない」と争われる可能性があります。メール、内容証明郵便、弁護士からの通知、調停申立て等、日付と内容が残る方法を検討します。終期は通常、同居再開や離婚成立等との関係を整理します。
話合いで決まらない場合の調停・審判
金額、始期、支払方法について合意できない場合は、家庭裁判所へ婚姻費用分担請求調停を申し立てられます。調停では双方の収入・支出・資産等を確認して合意を目指し、不成立の場合は審判へ移行します。
合意するときは、月額、振込日、振込先、始期、終期、未払い分、臨時費用、収入が変わった場合の協議方法を明確にします。
婚姻費用を計算・シミュレーションするときの注意点
例えば、子ども2人を一方が監護している場合は、まず2人の年齢に対応する婚姻費用表を選びます。次に、支払う側と受け取る側それぞれについて、給与所得か自営業かを分け、年収資料を該当する目盛りへ当てはめます。ここで、手取り月収を12倍した金額をそのまま使う、課税所得と売上高を取り違えるといった誤りに注意します。
交わる帯を確認した後、住宅ローン、私立学校費、継続的な医療費等を別紙にします。特別事情の支出額をすべて相手へ上乗せできるわけではなく、算定表に既に含まれる費用、夫婦の収入比、従前の合意等を確認します。
算定表の上限または下限を主張する場合は、「生活が苦しい」「相手の方が悪い」という抽象的な理由だけでなく、何の費用が、いつから、月いくら必要かを資料で示します。
請求する側・請求された側で準備する資料
請求する側
自分の収入資料、子どもの学費・医療費、家賃や住宅費、これまで相手が負担していた費用、別居後の入金履歴を準備します。相手の勤務先や概算年収が分かる資料も手掛かりになります。
請求された側
自分の収入資料、既に支払っている家賃・住宅ローン・学費・保険料等、相手や子どもへ直接支払った記録を用意します。自分の生活費が高いというだけではなく、算定表との関係や特別事情を分けて説明します。
双方に共通すること
収入や支出を口頭だけで伝えず、対象期間の分かる資料を提出します。直近の収入が一時的に増減した場合は、転職通知、休職証明、雇用契約、賞与の推移等も確認します。資料の一部を隠したり、意図的に収入を減らしたりすると、手続が長引く原因になります。
当面の支払いをどうするか
最終額が決まるまで生活費が不足する場合、争いのない範囲の暫定払いを提案することがあります。その際は、「暫定額であり最終的な月額を確定するものではない」「後で差額を清算するか」を書面で確認します。受け取る側も、暫定払いを受けた月と金額を一覧にして、二重請求にならないようにします。
婚姻費用の合意書に入れたい項目
月額だけでなく、開始月、毎月の支払日、振込先、振込手数料、未払い分の清算日を定めます。学校納付金や入院費など臨時費用を誰がどの割合で負担するか、事前協議が必要かも書きます。
終期を「離婚成立まで」とする場合、離婚日が月途中なら日割りにするか、その月分を全額とするかを確認します。収入の大幅な変動、子どもの進学、同居再開等があった場合の再協議条項も検討します。
合意内容を公正証書にする場合は、金銭支払いについて強制執行認諾文言を入れるか公証人へ相談します。単なるメモ、通常の合意書、調停調書、公正証書では、未払い時に利用できる手続が異なります。
金額が決まった後も記録を残す
毎月の入金、相手が直接支払った学費・家賃、臨時費用を一覧にします。現金払いは受領書を作り、何月分かを明記します。支払いが止まった場合に備え、相手の住所・勤務先の変更を把握できる連絡ルールも合意しておくとよいでしょう。
2026年4月からの差押えに関する新ルール
2026年4月1日以降に発生する婚姻費用のうち、子の標準的な監護費用等を踏まえた法務省令所定の範囲には先取特権が認められました。裁判所の案内では、その範囲は月額8万円に子の人数を乗じた額です。
この「8万円×子の人数」は婚姻費用の標準額や上限額ではなく、合意書面に基づき先取特権を使える範囲です。
調停調書や強制執行認諾文言付き公正証書等の債務名義があれば、その内容に基づいて全額の強制執行を検討できます。将来分を給与等の継続収入へ差し押さえられる場合がありますが、預金差押えは原則として未払い分が対象です。詳しくは裁判所の案内を確認してください。
よくある質問
Q. 算定表の金額を必ず受け取れますか
A. 算定表は標準的な婚姻費用を検討する目安で、確定額ではありません。双方の収入資料、子どもの人数・年齢、住居費、教育費、医療費等を確認し、協議・調停・審判で金額を決めます。
Q. 婚姻費用は別居した日までさかのぼって請求できますか
A. 当然に別居日までさかのぼるとは限りません。実務上、請求の意思を明確にした時点が重要になることがあります。記録の残る方法を早めに検討してください。
Q. 相手が収入資料を出さない場合はどうしますか
A. 課税証明書、源泉徴収票、確定申告書等の提出を求め、調停では裁判所を通じた資料提出も検討します。職歴、就労状況、過去の収入等も整理します。
Q. 住宅ローンを払っていれば婚姻費用は不要ですか
A. 住宅ローンの支払いだけで婚姻費用が当然にゼロになるわけではありません。居住者、ローン負担、算定表の住居費との関係を確認します。
まとめ|年収資料と特別事情をそろえて検討する
婚姻費用の検討は、正しい算定表を選び、双方の年収資料を確認することから始まります。住宅費、教育費、医療費等の事情は、資料を付けて算定表と分けて整理します。
請求する側も請求された側も、金額だけでなく始期と支払方法まで確認することが重要です。個別事情を踏まえた見通しを整理したい方は、岩澤法律事務所の離婚・男女問題と相談の流れをご確認のうえ、相談予約フォームをご利用ください。
このコラムの監修者
岩澤法律事務所
岩澤 千洋弁護士宮崎県弁護士会所属
日々の生活で生じる悩みの多くは法的な問題に分析することができ、何かしらの法的な解決(目的地)を見つけることができます。まずは、お気軽にご相談ください。どのような問題であれ、何事も依頼者の方の立場利益を第一に考えて、できる限り依頼者の方の利益にかなう解決(目的地)に向けて最善の努力をいたします。