公開日:2026.08.09 更新日:2026.08.08
養育費の強制執行とは?支払われないときの回収方法と手続

養育費の入金が止まると、子どもの食費、学費、医療費など毎月の生活へ直接影響します。一方で、相手へ何度連絡してもよいのか、履行勧告と差押えのどちらを選ぶのか、勤務先が分からない場合にどうするかは分かりにくいものです。
回収の出発点は、養育費を定めた書類と、いつ・いくら支払われていないかを確認することです。
調停調書、審判書、判決、強制執行認諾文言付き公正証書があるか、単なる合意書か、口約束だけかによって利用できる手続が変わります。
※本記事は2026年8月時点の一般的な情報です。制度の適用時期、必要書類、管轄等は個別に確認してください。
目次
まず取決めと未払い額を確認する
次の資料を集めます。
- 離婚協議書、合意書、公正証書
- 調停調書、審判書、判決、和解調書
- 確定証明書、送達証明書等
- 養育費の入金口座の通帳・取引履歴
- 月ごとの約定額、入金額、差額をまとめた未払い一覧
- 相手とのメール、メッセージ、住所・勤務先情報
「今月分がない」だけでなく、過去の一部払い、立替金との相殺を主張された月、増減額の合意があったかを分けます。遅延損害金を請求できるかも、取決めと支払期日を確認します。
回収方法を債務名義の有無で分ける
強制執行に使える公的書類を一般に「債務名義」といいます。調停調書、確定した審判・判決、裁判上の和解調書、強制執行認諾文言付き公正証書等が代表例です。
債務名義がある場合は、履行勧告や差押えを検討できます。私的な合意書や口約束のみの場合は、原則として養育費請求調停・審判で債務名義を得ることを検討します。

履行勧告と履行命令の特徴
履行勧告
家庭裁判所で決めた養育費が守られない場合、事件を扱った家庭裁判所へ履行勧告を申し出られます。裁判所が相手へ支払いを促す制度で、申出費用はかかりません。
ただし、履行勧告には財産を差し押さえる強制力はありません。 相手が任意に支払わない場合は、強制執行を別に申し立てる必要があります。公正証書だけで定めた場合は、家庭裁判所の履行勧告の対象になりません。
履行命令・間接強制
家庭裁判所が履行を命じる制度や、一定期間内に支払わなければ間接強制金を課す方法があります。しかし、これらも相手の給与や預金から直接回収する手続とは異なります。どの手続が実効的かは、相手の支払能力や財産状況を踏まえて選びます。
詳しい違いは裁判所の履行勧告等の案内で確認できます。
養育費の強制執行で給与・預金を差し押さえる
給与差押え
相手の勤務先を第三債務者として、給与の一部を差し押さえます。養育費等の扶養義務に基づく定期金債権は、一般の金銭債権より差押禁止範囲が縮小される特則があります。
既に期限が来た未払い分だけでなく、一定の要件の下で将来分も給与や家賃収入等の継続的な収入から回収できる場合があります。転職・退職により給与債権がなくなると、その勤務先への差押えは続きません。
預金差押え
銀行名・支店等を特定し、差押命令が銀行へ届いた時点の預金から回収します。預金は将来継続して発生する給与とは異なるため、原則として、その時点までの未払い分が対象です。差押えの時点で残高がなければ回収できません。
不動産・その他の財産
不動産、自動車、売掛金等が対象になる場合もありますが、費用、先順位の担保、換価可能性を確認します。回収額との釣合いも重要です。
財産や勤務先が分からないとき
確定判決、調停調書等を有する債権者は、要件を満たせば財産開示手続を申し立て、債務者本人に財産状況を陳述させることができます。また、第三者からの情報取得手続により、金融機関の預貯金情報、不動産情報、養育費等について市町村等から勤務先情報を得られる場合があります。
2026年4月からは、養育費債権について、財産開示、勤務先情報取得、給与差押えを一回的な申立てで進める仕組みが導入されました。すべてのケースで自動的に勤務先が判明するわけではないため、必要な債務名義、送達、住所、申立先を確認します。詳しくは法務省の案内を参照してください。
回収手続を始める前の実務チェック
相手の住所を確認する
裁判所書類の送達には、相手の住所が必要です。転居している場合は、過去の住所、戸籍の附票や住民票を取得できる要件、勤務先から得ている情報等を整理します。SNS上の情報だけで住所や勤務先を断定せず、正式な手続に使える資料かを確認します。
必要書類の原本・正本を確認する
調停調書や審判書のコピーがあるだけでは、申立てに足りない場合があります。正本、送達証明書、確定証明書、執行文が必要かは債務名義の種類で異なります。公正証書では強制執行認諾文言の有無を確認します。
費用と回収可能性を比べる
差押えには申立手数料、郵便料、資格証明書等の取得費用がかかります。不動産執行は予納金が高額になる場合もあります。未払い額、相手の資産、先順位債権、勤務継続の見込みを踏まえ、給与・預金・その他財産のどれを対象にするか検討します。
相手が「払えない」「減額したい」と言う場合
相手の収入減、失業、病気、再婚、新たな扶養家族等が生じても、既存の取決めが連絡だけで自動的に減額されるわけではありません。変更に合意する場合は、変更月、月額、未払い分、将来の見直し条件を書面にします。
合意できない場合、支払う側が養育費減額調停を申し立てることがあります。受け取る側は、子どもの生活費、教育・医療費、双方の最新収入、事情変更の時期を確認します。将来分の変更問題と、既に期限が来た未払い分の回収は分けて整理してください。
一部だけ入金された場合は、どの月の元金へ充当するかを記録します。相手が学費や物品を直接支払ったと主張する場合も、それが養育費の代わりになる合意だったか、通常の養育費とは別の臨時費用かを確認します。
連絡するときに残したい記録
電話だけで督促すると、支払約束や理由が残りません。支払期日、未払い合計、入金先、回答期限を簡潔に書き、メールや書面で送ります。感情的な非難、職場や親族への暴露を示唆する表現は避けます。相手から「来月まとめて払う」と返答があれば、その日付と金額を保存します。
差押え後も確認が必要なこと
給与差押命令が出ても、勤務先から直ちに全額が振り込まれるとは限りません。差押命令の送達、第三債務者の回答、取立可能時期、振込方法を確認します。勤務先が複数の差押えを受けている場合や、税・社会保険料等との関係で回収額が限られる場合もあります。
相手が退職・転職した場合、以前の勤務先への給与差押えから新しい勤務先へ自動で切り替わるわけではありません。新勤務先の調査と新たな申立てを検討します。預金差押えも、差押命令が銀行へ届いた時点の残高に左右されます。
回収した金額は、元金、遅延損害金、執行費用のどこへ充当したかを記録し、未払い一覧を更新します。将来分の支払いが再開した場合も、過去分が残っていないかを月別に確認してください。
子どもへ負担を負わせない
養育費は子どもの生活を支えるものですが、子ども本人を督促の伝言役にしたり、支払いの有無を理由に親子交流を一方的に交換条件としたりすることは避けます。養育費と親子交流はそれぞれ子どもの利益を中心に整理し、必要に応じて別の家庭裁判所手続を利用します。
2026年4月からの養育費回収の新ルール
養育費債権の先取特権
2026年4月1日以降に生じる養育費について、書面による合意がある場合などに、一定額の範囲で先取特権に基づく差押えを申し立てられる制度が始まりました。法務省令で定める範囲は子1人当たり月額8万円です。
これは養育費の標準額でも上限額でもありません。例えば月額10万円の養育費を債務名義で定めている場合、債務名義に基づく強制執行では取決めに従った全額を請求し得ます。
法定養育費
2026年4月1日以後に、父母が養育費を決めずに離婚した場合、適正な養育費が決まるまでの暫定的・補充的な制度として、子1人当たり月額2万円の法定養育費が発生します。
月2万円は通常の養育費の基準や標準ではありません。 父母の収入や子どもの事情を踏まえ、協議や家庭裁判所の手続で適正な額を定めることが大切です。2026年4月1日より前に離婚した場合、法定養育費は発生しません。
取決めが口約束だけの場合
まず、相手へ養育費の額、支払日、開始時期、振込先を提案し、書面化を求めます。合意できない場合は、養育費請求調停を申し立てます。
合意できる場合も、将来の未払いに備えて強制執行認諾文言付き公正証書にする方法があります。進学、医療費、収入変動、再婚等の事情が生じた場合の協議方法も定めます。
よくある質問
Q. 1回でも未払いなら履行勧告を申し出られますか
A. 家庭裁判所の調停・審判等で定めた養育費が履行されない場合、事件を扱った家庭裁判所へ履行勧告を申し出られます。費用はかかりませんが、強制力はありません。
Q. 相手の勤務先が分からなくても給与を差し押さえられますか
A. 給与差押えには勤務先の特定が必要です。一定の要件の下で、財産開示や第三者からの情報取得を利用できる場合があります。
Q. 口約束しかない場合、すぐ差し押さえできますか
A. 通常は、まず養育費を調停・審判等で定め、債務名義を取得します。新しい先取特権が使えるかは、合意書面、発生時期、金額等を確認します。
Q. 法定養育費の月2万円が通常の養育費額ですか
A. いいえ。取決めのないまま離婚した場合の暫定的・補充的な制度で、通常の養育費額の基準や標準ではありません。
まとめ|書類と未払い一覧から回収ルートを選ぶ
養育費が支払われないときは、連絡を繰り返す前に、取決めの書類、未払い一覧、相手の住所・勤務先・財産情報を整理します。履行勧告は利用しやすい一方で強制力がなく、差押えには債務名義や対象財産の確認が必要です。
回収手続と今後の養育費の取決めを一緒に整理したい方は、岩澤法律事務所の離婚・男女問題と相談の流れをご確認のうえ、相談予約フォームをご利用ください。
このコラムの監修者
岩澤法律事務所
岩澤 千洋弁護士宮崎県弁護士会所属
日々の生活で生じる悩みの多くは法的な問題に分析することができ、何かしらの法的な解決(目的地)を見つけることができます。まずは、お気軽にご相談ください。どのような問題であれ、何事も依頼者の方の立場利益を第一に考えて、できる限り依頼者の方の利益にかなう解決(目的地)に向けて最善の努力をいたします。